私は天使なんかじゃない







ウィヘルム埠頭の決闘





  トンネルスネーク最強っ!





  不思議な、というか奇妙なレディ・スコルピオンとかいう女と別れて俺たちはウィルヘルム埠頭に到着した。
  何だったんだろうな、あの女。
  名前はイカしてたけどよ。
  「兄貴、楽しみですね」
  「だな」
  俺たちは椅子に座り、テーブルにミレルークシチューが出てくるのを待っている。
  露店の店だ。
  青空レストラン。
  すぐ目の前には川が流れている。
  結構繁昌している、レイダーみたいのとかやたらトゲトゲの鎧……確かメタルアーマーだっけか?そいつを着込んだ奴らもいる。というか何だこいつら白いバイクヘルメット被ってる。
  あれじゃ食えないし飲めないだろ、客じゃないのか?
  ただリーダーっぽい眼帯野郎は何も被っていない。こちらを睨んでいるようだが無視した。
  ただの旅人のような奴らもいるし繁昌しているようだ。
  それなりに危険地帯なのか、傭兵服を着た奴らが道沿いに数名屯っていた。
  ハンティングライフルを持っている。
  時折川向こうの廃墟の街から銃声や悲鳴が聞こえてくるのは……何なんだ……?
  「音が気になるの、ブッチ君?」
  「ああ、何なんだ?」
  俺とトロイはもう1人別の人とテーブルを囲んでる。
  相席ってやつだ。
  ただ全く知らないかと言えばそうでもない、知っている人だ、レギュレーターのモニカさん。彼女とはここでたまたま会い、向こうから相席を言ってくれた。他のテーブル埋まってたし助かったぜ。
  モニカさんは既に食べ終わっていて、さっき傭兵服の奴が皿を下げて行った。
  あいつら傭兵ではなく店員もしてるのか?
  「ここって色々な方面へと続く場所なのよ。リベットにも行けるし要塞にも行ける、メガトンにもね。レイダーとしては稼ぎ場ってわけ」
  「じゃあ、あの音はレイダーに誰か襲われてるのか?」
  ちっ。
  ケチなことしやがる連中だぜ。
  助けに行かんと。
  立ち上がろうとするとモニカさんが押し留めた。
  「放っときなさいよ」
  「何で?」
  「この辺りは今だにスーパーミュータントの勢力地なのよ。……ああ、川向うはね、ここは大丈夫だけど」
  「じゃあレイダーは逆に狩られてるのか?」
  「そうなるわね」
  「……何だってあいつらはわざわざ向こう側のルートを選ぶんだ?」
  「さあ? 自殺希望者かしら」
  「ははは」
  虎も狼も共倒れが一番ってわけか。
  じゃあ放っておくか。

  「女連れで飯とはいいご身分だな」

  ああん?
  思わず切れそうになるけど俺は流した。
  いかんいかん、争いは避けないとな。
  挑発してきたのはメタルアーマーを着た連中が陣取るテーブルからだった。言ったのは右目に眼帯をした男。俺より年上そうだ。やばい雰囲気を察したのか……いや、たぶん喧嘩慣
  れしてない平和主義者なのだろう、近くに座ってた連中が勘定を済ませて足早に去っていく。ぽっかりとそこだけテーブルが空席となった。
  何だあいつら?
  数は6人。
  腰には単発銃。10oだったり32口径だったり。
  防具は堅そうだが武器は雑魚いな。
  「兄貴ー」
  「気にするな。喧嘩はしねぇよ。ワルはそんなに簡単に切れちゃいけないのさ」
  「さすが兄貴っ!」

  「スプリング・ジャック、この店で騒動起こすな。ここはお前のケチな縄張りじゃない、お頭の縄張りだぞ、お頭を敵に回す気か?」

  傭兵っぽい店員の1人がその時眼帯どもに注意した。
  常連なのか、あいつら?
  というかお頭?
  何か妙な店だ。
  モニカさんは口を抑えてくすくすと笑った。なかなか可愛いぜ。
  「この辺りは荒っぽいのよ、ブッチ君」
  「みたいだな」
  「まあ、レイダー未満のチンピラだしレギュレーターも見逃してる。ハンター達もいるし、チンピラたちもまず悪さしないでしょうね」
  レギュレーター。
  ビリーに聞く限りでは悪党退治の組織らしい。
  リーダーはソノラって奴だ。
  話したことはないんだが一時的俺も要塞で厄介になってたから、その時遠巻きに見たことがある。
  ……。
  ……敵には回したくないオーラが出てたな(怯)
  悪党を狩るわけで、ワルの俺様は大丈夫だよな?
  あいつはこえーぜ。
  「ハンターって何だ?」
  「ハンター。野生動物を狩ってその肉や卵、皮を売り捌いてる連中よ。ここのハンターはミレルーク専門ね。確か……どっか別のハンターたちはミレルークの養殖してるとか聞いたことあるわ」
  「ミレルークってカニ人間だよな、まだ見たことないけど。養殖もしてる奴らいるのかよ、すげぇな」
  「人間ってしぶといのよ、ブッチ君」
  「なあ、聞きたいことがあるんだが……キャピタル・ウェイストランドって人口どれぐらいなんだ?」
  「どうして?」
  「いや、優等生がわりと無双している割にはたくさん人間いるなって思って」
  優等生が無双しているのが悪党限定にしても旅してて思った、人がたくさんいる。
  もちろん敵も。
  フェラルなんかキリないだろってぐらいメトロで出て来たからな。
  「戦前はワシントンだけで何十万以上もいたのよ、全部が核で吹っ飛んだわけじゃない。地下に潜ってたり人知れず廃墟で暮らしてたり。一応世の中が安定して来たから這い出してきた
  のよ、皆。とはいえ生活基盤も何もない状態で出て来たから犯罪が増えてる。どの集落も人が欲しいけど、街がある程度の支援して受け入れるにも限度があるし」
  「なるほどなぁ」
  納得だぜ。
  フェラルもそう考えたら数万単位で地下を徘徊して、そして出てきてるのかもな。
  「メトロの連中も最近這い出してきたみたいだし」
  「メトロ? 駅に住んでる連中?」
  「それもあるけど、メトロと言ったら一般的にはそのさらに奥にいる連中を指すわ」
  「モグラかよ、そいつら」
  「確かにね。私はまだ見たことないけど」
  「物騒な連中なのか?」
  「さあ? 向こうはこっちを見つけても接触してこないから何とも。少なくともソノラは無視しろと言っているわ。彼女が言うからには、害はないのでしようね」
  「ふぅん」
  「多分この間もメトロで遭遇してるんだろうけど、私たちはまず気付かない、連中も私たちを避ける、幽霊みたいなもんよ」
  「不思議が一杯だぜ、外は」

  「お前のそのダサい髪型のほうが不思議だけどな、お坊ちゃまっ!」

  「んだとっ!」
  ガタ。
  俺は立ち上がる。勢いよく立ち上がったから椅子が倒れた。
  「あ、兄貴ー」
  「文句あるなら掛かって来いよ、てめぇっ!」
  縋りつこうとするトロイを引っぺがして俺はスプリング・ジャックとかいう眼帯野郎のところに行く。
  やれやれとモニカさんは呟いた。
  「何だ何だ? 気持ちよく食ってるのにお前はいちゃもん付けるのかぁ?」
  「お前が気持ち良くても俺は違うんだよっ!」
  視線が交差する。
  「モニカさん止めてくださいよー」
  「それはソノラに命令されていないわ。まあ、喧嘩するぐらいいいんじゃない?」
  「そんなぁ」
  「そろそろ私は行かなきゃ」
  止めるでもなく煽るでもなくモニカさんは去って行った。
  ……。
  ……い、いや、まあ、いいけど、冷たくなくね?
  眼帯の部下が逃げるのかよと言ったものの、振り返ったモニカさんの鋭い目つきを見て萎縮、そのまま次の言葉を飲みこんだ。多分この中で一番強かったんじゃないか、モニカさん。
  立ち去ったモニカさんの後姿を見ながら俺はそう思った。
  レギュレーターってヤバい連中なんだな。
  「おいおいてめぇら見ろよ、こいつPIPBOYしてるぜ? ボルトのお坊ちゃまだったのかよ。穴蔵に戻ってガタガタ震えてた方がよくないか? ママ、怖いよー」
  「てめぇ死にたいのか?」
  「おお怖っ! ボルトボーイに睨まれてちびっちまいそうだぜっ!」

  「おいスプリング・ジャック、ここで問題を……っ!」
  「いいさ。やらさておやりよ」
  「お、お頭」

  お頭?
  あの婆ちゃんがか?
  「聞いたかボルトボーイ、スパークル婆からのお許しが出たよ。お前を殺して明日のシチューにしていいってよっ! それが嫌なら、そうだな、そのPIPBOYを渡しな」
  「なあ、それは俺に言ってるのか?」
  「はあ? 他に誰に言うんだよ、お前だよ、このボルト野郎っ!」
  「優しいブッチ様ももう切れたぜ。こいつ、誰に喧嘩を売ってるのか分かってないな。はははっ! トンネルスネークのブッチ様だぞっ!」
  「何訳分からんことを言ってやがる」
  眼帯が立ち上がる。
  それから銃をホルスターから引き抜き、テーブルに置いた。
  へぇ?
  素手の勝負ってわけか。
  思ってたよりは根性がありそうだ。
  俺も8oピストルを2丁テーブルに置いた。懐のスイッチナイフは、まあいいか、使わないし。
  「ブッチとかピッチとか言ったか? こいつは使うか?」

  カラン。

  テーブルにメリケンサックを置く。奴自身はそれをはめた。
  「おいおい外の連中はこんなもの使わなきゃ喧嘩もできないのかよ? 軟弱だな」
  「何だとっ! 俺が軟弱だとっ!」
  「ついでに馬鹿だな」
  「馬鹿じゃねぇよっ! 俺の頭の中にはすげぇ良い案があるんだよっ! 水キャラバンを襲撃するのさ、それを繰り返すんだ、そしてリベットの警備兵が少なくなったら俺たちが警備を
  立候補するのさ、連中は喜んで俺たちに給料を支払うぜ。すげぇだろっ!」
  「ああ」
  「だろっ!」
  「すげぇ馬鹿だ」
  「……」
  「お前短絡的すぎんだろ」
  「殺すっ!」
  メリケンサックした拳を俺に繰り出してくる。瞬間、俺は踏み込んで奴の頭に強烈な頭突きを叩き込む。
  目玉がぐわんと反転しながら眼帯はその場にひっくり返った。
  弱いだろ、こいつ。
  「あわわわわわ」
  手下どもは浮足立ってる。
  俺は一歩前に出る。
  ずざざざっと勢いよく下がる手下。
  へたれかよ。
  「こいつに言っとけよ。悪党よりワルの方が格好良いってよ。俺の名はブッチ・デロリアだ。メガトンにいる。文句あるなら、いつでも相手するって言っとけよ」
  テープルの9oをホルスターに戻す。
  スプリング・ジャックはまだ伸びてる、気絶している。
  「いいねいいね、あんたいいね」
  「ん?」
  お頭って呼ばれてた婆ちゃんがこっちに来る。
  ハンターを従えて。
  「何か用かい?」
  「私はスパークル。この辺りのハンターも従がえてる。ついでにこの辺りのチンピラも、私の料理を生まれた時から食ってるのさ。あんたメガトン住まいだって?」
  「ああ。今はな」
  「PIPBOYしてるところを見るとボルトの人間かい?」
  「ああ。ボルト101にいた」
  「じゃあ、赤毛の冒険者の知り合い?」
  「何だよ婆ちゃん、あいつ知ってるのか?」
  「会ったことはないよ。ただ、メガトンとかの街の有力者とお友達だってね、その子。BOSにも顔が利くらしい」
  「ダチだよ。それが?」
  「友達かい。じゃあ仲介してくれないかね、その子と友達ならその関係であんたもメガトンの街の市長と懇意なんだろ?」
  「まあ、ある程度は」





  要塞。
  エルダー・リオンズの執務室。
  「勝手にワシの補佐役をしょっ引くのは困るのじゃがな。……あー、いや、取り上げるぐらいなら最初から寄越さないでほしいのじゃが」
  「Dr.ピンカートン、ここに呼んだのは愚痴を聞くためではない」
  執務室には2人。
  キャピタル・ウェイストランド随一の科学者と自負するDr.ピンカートン、キャピタル・ウェイストランドで独立したBOS支部の指導者エルダー・リオンズ。
  要塞は今、混乱していた。
  COSと同調していた者が5名いたからだ。
  COS、それはBOSの暗部。
  エルダー・リオンズたちは西海岸の本部から独立こそしたものの、コーデックスという規律を遵守していた。指揮系統からは独立したが思想はBOSのままだった。しかしCOSは違う、現在のBOS
  体制に取って代わろうとしていた。そうすることでBOSを改革し、長年蓄えたBOSの力を外界に対して行使しようとしていた。ある意味でエンクレイブと似たような思想の集団。
  事の発端はアンダーワールドだった。
  巡回中の部隊が水を運搬する輸送隊と遭遇、その輸送隊はパワーアーマーを着用していた。パワーアーマーはBOSが独占的に保有しているものの、高価で、数は少ないがキャピタル・ウェ
  イストランドでも出回っている。だから別におかしくはない。問題はそのパワーアーマーに記された記章はBOSのものであり、そして誰何したと同時に攻撃してきたからだ。
  BOS巡回部隊は直ちに返り討ちにした。
  一部は逃げたが、その際に自分たちはCOSだと名乗った。
  それで要塞内が混乱した、まだ裏切り者がいるのではないかと。COSはBOS内のトップシークレット、当然身内の素性が改められた。
  その際に内通者が発覚した。
  数は5名。
  現在のキャピタルBOSは原住民を広く受け入れている、それだけではなくグールとの交渉も始めている。
  そう、赤毛の冒険者が現れた時から変わり始めた。
  捕縛された者たちはそれが不満だったらしい、人間の原住民はともかく、グールまで対等に扱うのはどうかと。
  尋問直後に全員自殺してしまったので詳細は分からなくなったが、どうも本隊がポイントルックアウトに向かったらしい。そしてエルダー・リオンズのやり方に反発したOCたちも。
  事態を重く見たエルダー・リオンズは娘のサラに部隊を与え、調査の為にポイントルックアウトに向かわせた。
  「エルダー・リオンズ、ビクスリーを解放して貰いたい」
  「あやつは……」
  「水の横流し?」
  「そうだ」
  「その程度のこと。仕方ないではないか、BOSがじり貧なのだからな」
  「何が言いたい?」
  「水の運搬頼む、分かったリベットにお任せをー……なんて成り立ちわけあるまい。連中は連中で自分たち用のアクアピューラを欲しがっていた、水の運搬を効率的に行う、その為の駄賃じゃよ」
  「待て、まさかDr.ピンカートンはそれを知っていたのか?」
  「ワシが差配した」
  肩を竦めて老科学者は笑う。
  庇っているのか、本気なのか、エルダー・リオンズは判別付きがたかった。Dr.ピンカートンは続ける。
  「あんたらはBOSルールを言うがそんなもので世界は動かんよ。ビクスリーはBOSと世間との折衝役として不眠不休だった。称えこそしても、捕えられることはあるまい?」
  「……」
  「大義だけでは何にもできん。キャップが掛かるんじゃよ、運搬にしてもな。解放してくれんかの? で、しばらく謹慎という名の休暇を与えてやってくれ」
  「ふむ。分かった」
  「おやおや随分と話が早いな」
  「別の問題も出てきている。Dr.ピンカートンにもその為の知恵を貸してもらいたい」
  「アクアピューラにFEV混入以外の話でさらに厄介が増えるのか?」
  「2つほど」
  「聞きたくはないが、まあ、聞かせてくれ。抵抗しても無駄そうじゃしな」
  「テンペニータワーのグール達がFEV入りの水をCOSに供給され死んでいた、FEV入りかどうかの当たり外れがあるが、COSが普通のアクアピューラ飲んで死ななかったグール達も物理
  的に殺した。全滅じゃ。アンダーワールドに水を運んだグールはテンペニータワーの連中だ。一山当てようとした連中のようだ。旅立った後、タワーが皆殺しにされた」
  「COSはグールを毛嫌いしているようだな。それで? もう1つの厄介とは?」
  「タコマインダストリィの地下にボルトがあった。FEV保管施設だ。今、部隊を派遣して調査中だ」
  「一体全体、何の冗談だ、これは?」
  「分からんがこれだけは言える。事態はもっと最悪へと傾くだろうと」





  『ハロー、アメリカ』
  『ここで霊的な引用を。大統領ジョン・ヘンリー・エデン自身が、あなたの心に届けよう』
  『寛容から生まれた悪は抑制から生まれたそれよりも有害だ』





  「着いたぜ」
  メガトンに到着。
  巨大な壁に覆われたメガトンの街の門の前に俺たちは着いた。
  「オススミクダサイ」
  門の前にいるプロテクトロンのウェルド副官が機械的な声で歓迎してくれる。まあ、機械なんだけど。街の中にある物見台からスナイパーライフルを持った数人が外を見ていた。
  時刻は夕方。
  特に何の抵抗もなく俺たちはここに到着した。
  ウィヘルム埠頭のハンターの元締めであるスパークル婆ちゃんとその手下のハンター3人、俺とトロイの計5人での移動。婆ちゃんはコンバットショットガン、ハンターはハンティングライフル。
  滅茶苦茶強い布陣ってわけでもなさそうだが、人数が増えればそれだけ旅は安全となる。
  主要な道にはメガトン共同体の警備兵が巡回してるしレイダーや野生動物は追い払われたし大分安全だよな。
  これも全て優等生が這い出して来てかららしい。
  ……。
  ……あいつの影響力半端ないぜー。
  俺も早く最強のギャング団を作りたいぜ。
  「大きな門だねぇ」
  「何だよ婆ちゃん、初めて来るのか?」
  「今までの取引先はリベットシティだったし、こっちには来なかったからねぇ」
  「ふぅん」
  気を付けてはいる。
  気を付けてはいるんだが、俺のこの言葉遣いはどうもハンターたちには不愉快らしい。まあ、そうだな、自分たちのボスにタメ口だから、そりゃ怒るか。
  だけど婆ちゃんは別に気にしていないようだ。
  「あ、兄貴」
  「何だよ、トロイ」
  「何か走ってきます」
  「何か……?」
  トロイは荒れた荒野を指差す。
  薄暗くて何も見えない。
  「何もいないぞ、トロイ?」
  「いや確かに何か来る。それも……無数に……」
  ハンターの1人がトロイの言葉を肯定しながら地面に耳を付けている。耳を地面から話してライフルを構えた。他のハンターもだ。
  俺には何も見えない。
  「トロイ、お前目が良いんだな」
  「それより兄貴、早く中に入りましょうよっ!」
  
  「門を開けろっ! そこのあんたら、さっさと入れっ! ドラウグールが来るぞっ!」

  ドラウグール?
  物見台から声が降ってくる。
  ストックホルムって保安官助手だったような。いつも物見台にいるから話したことないけど。
  銃声が響く。
  俺たちが撃った、というわけではなく、物見台からの銃撃だ。
  ようやく薄暗い闇の中から向かってくるものが見えてくる。
  グールだ。
  全力疾走してくるグールの群れだ。

  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴっ。

  メガトンの扉が開く。
  「早く入れっ!」
  市長兼保安官のルーカス・シムズが部下を引き連れて出てくる。ちなみに、保安官と保安官助手は基本的に街の中の治安維持、警備兵は基本的に外の巡回、という役回りだ。
  警備兵は10名。
  アサルトライフルを手に俺たちの横を通り過ぎ、それから銃弾を向かってくるグールに浴びせた。
  無手でグールが突っ込んでくるわけないから、あれはフェラルか。
  知性の無い獣。
  俺たちはメガトンに飛び込み、ウェルド副官も市長に言われて門を通り過ぎてくる。外に飛び出した兵士たちもひとしきり銃弾を浴びせた後に戻ってきた。
  門が閉じる。
  「ブッチ、危ないところだったな」
  「危ない?」
  ルーカス・シムズは部下たちに警戒するように言い、部下たちは街の中に散った。
  「何が起きてるんだ?」
  「連中が入り込まないようにマンホールの点検に向かったのさ。さすがに壁を乗り越えては入って来れんからな、入るなら、門か地下からしかない。分かってるだろ?」
  「ああ」
  エンクレイブのメガトン占領の際には、メガトン住民はマンホールから外に逃げた。
  そして優等生の意を汲んだ俺の斡旋でアマタはボルト101の扉を開き、メガトン住民を一時的に匿った。
  「あいつらは何なんだ? さっきストックホルムがド、ド、ドラブ……?」
  「ドラウグールだ」
  「何だそりゃ? フェラルじゃないのかよ?」
  「命名したのは酒場に来てた酔っ払いさ。何でも北欧神話だかに出てくる知性のあるアンデッドだ。本来はドラウグルらしい。語呂が良かったからな、ドラウグールって呼んでるのさ」
  「俺たちが出るときはいなかったよな?」
  「ああ。ビリー・クリールと一緒にお前らが旅立った後辺りからこの近辺に出没するようになったんだ。何でだかは分からん。襲ってくるときに多少片言で喋るんだよ、もっとも武器を使う
  という知性はないようだが。フェラルやグールとは別物と認識してる、だから俺たちはドラウグールと呼んでいるんだ」
  「強いのか?」
  「強くはない。がフェラル同様に数に任せてラッシュしてくるからな、小人数だと簡単に骨だ。それに多少とはいえ喋るからな、気味が悪い。主に夕刻から活動してる。どこから来てるのか
  調査してるのだがまだよく分からない。この時間帯は巡回の兵士たちも引き揚げさせている。他の街にも夕刻からは街の外に出歩かないように通達済みだ」
  「物騒な世の中だぜ」
  「まったくだ。それで……そちらはどなただ? 旅の道連れか?」
  「ようやく話が回って来たね。私はスパークルだよ、よろしくね」
  「スパークル? ウィルヘルム埠頭の?」
  「知っていてくれて嬉しいよ、メガトン市長さん」
  有名らしい。
  幾分か市長は威儀を正し、軽く咳払い。
  「何か御用ですかな?」
  「取引がしたい。正確に言えば協定を結びたい」
  「協定?」
  「そうだ。私たちはミレルークを狩ってる。それを調理したり加工したりする、売買もする。問題は肝心のミレルークの狩猟場が失われてきててね」
  「話が見えてこないが……」
  あー。
  俺は分かるぜ、その話。Dr.爺ちゃんが話してたな。
  「市長、ジェファーソン記念館で聞いたんだけどよ、ミレルークって汚染させた水でしか生きられないんだってよ。浄化されたダイタルベイスンの水は口に合わないらしいぜ」
  「へぇ? 私らもそれは知らなかったよ、それでか、なるほどねぇ」
  「つまりスパークルさん、今までの狩猟場があったリベット側からこちら側に変えたいということですかな? それを我々に援助しろと?」
  「一方的に援助しろとは言わないよ。持ちつ持たれつさ。確かに狩猟場までの安全を確保してほしいのもあるけど、こっちも代替案はある。魅力的だと思うよ? グレイディッチさ。あそこから
  這い出して来ている妙なアリどもはこちらで食い止めてる。他に行かないようにねぇ。それは継続して続ける。援助の対案として、メガトン共同体に参加しようじゃないか」
  「ウィルヘルム埠頭のハンターたちが?」
  「そう。良い案だろ? 埠頭を抑えれば、どこにでも行ける。逆に言えばあの回廊を塞がれたらどこにも行けなくなる。遠回りは得策じゃないよね、スーパーミュータントやレイダーが戦争して
  るから。私らハンターたちが旅の安全を保障するよ。どうだい、悪くないだろ? それに主要街道においしいレストランがあるってのも捨てがたいだろ?」
  「確かに」
  市長は笑う。
  決まりかな?
  話の内容はよくは分からないが皆が一つになっていく過程を見るのは楽しいな。
  「飲みながら話を詰めるのはどうです?」
  「いいねぇ」